アポロンのお告げは巫女の口を通じてもたらされた。巫女は50を過ぎた農婦の中から選ばれ,神殿に入る前には泉で身を清める。さらに泉の水を一口飲んで,予言の力をつける。神殿では山羊等の生贄を捧げる。そして,巫女は,神殿の中央にある祭壇で,アヘンやひよす草などを燻したものの香りをかぐ。巫女は半分失神したまま,月桂樹の葉を噛んで,三脚の上に座る。三脚の下には大地の割れ目があり,火山性のガスが出ていた。巫女はそのガスを吸って神がかりとなり宣託を告げた。それを神官が解釈して板に書き付けたのである。
お告げの内容は直接質問に答えるものではなく,曖昧なものが多かったという。この神託伺いは日常の些細な悩みから,王や政治家への宣託もあった。神託伺いは口頭だったが,国家の意思決定など大きな問題については,文書を提出させ,祭司達の討議資料とされた。デルフィの神託所は各国がもたらす情報に基づいて,より的確な判断ができたという。一種の情報センターのような役割も担っていたわけである。
松井彰彦 (2010). 高校生からのゲーム理論 筑摩書房 pp.63
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