あなたがもし就活を控えた大学生なら,「安定した大きな会社」はじつはもっともハイリスクな選択かもしれません。いったん伽藍の世界に取り込まれてしまうと,40歳(あるいは35歳)の転職可能年齢を超えると人的資本が会社のリスクと一体化してしまい,どれほど理不尽な状況になってもそこから逃れることができなくなってしまうからです。
そんな暗澹とした未来に比べれば,たとえ不安定に見えたとしても,汎用的な知識,技能,職歴,資格を獲得できる仕事のほうがずっとマシです。外資系やベンチャー企業だけでなく,中小企業でも,探してみればそうした機会はいくらでも見つかるでしょう。
そもそも「適職」などというものは,実際に仕事をしてみなければわかりません。そう考えれば,自分のキャリアをひとつの会社に限定するのではなく,転職を前提として,もっとも得意なこと(向いていること)を探すほうがずっと効率的です。そしていったん「適職」を決めたならば,会社ではなくその仕事に自分の人的資本のすべてを投入すべきです。それによって業界や消費者のあいだで高い評判を獲得できれば,それがあなたの“スペシャル”になるはずです。
橘 玲 (2011). 大震災の後で人生について語るということ 講談社 pp.163-164
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