さいわい,動物は私たちがわかっている以上に賢いという意見は,かなり尊重されるようになった。それというのも,主要な研究チームのひとつ,アイリーン・ペッパーバーグ博士と25歳のヨウム(アフリカハイイロオウム),アレックスのおかげだ。アレックスは今では,4歳から6歳のふつうの子どもの認識レベルに達している。
アレックスの成果がまさに画期的なのは,それまで,鳥に何かを教えることなどだれにもできなかったからだ。試した人がいなかったわけではない。鳥の研究者は膨大な時間をかけて,色などの概念を教えようとしてきたが,一歩でも理解に近づいた鳥は一羽もいなかった。なじみのあるものの名称でさえおぼえられなかった。これがサルにできることは,だれもが認めていた。サルのカンジには2歳6か月の子どもに相当する「受容言語」(受容言語とは理解できる言葉で,これに対して「表出言語」は,話したり,書いたりできる言葉だ)があると言われている。カンジのようなサルに,ほんとうに言語能力があるのかどうか,専門家がたとえ疑問視していても,サルが大量の言葉をおぼえられるのは明らかだった。ところが鳥には,ほんとうに,三歩歩くと忘れてしまう脳みそしかないように見えた。
だから,ペッパーバーグ博士の成功は大きな衝撃だった。アレックスは,これまでどんな鳥でも,なしえなかった色や形などのカテゴリーをおぼえた。しかも簡単に。さらに,一度おぼえたら,それまで見たことのないまったく新しいものでも,「どんな色?」と「どんな形?」とたずねられると自然に答えられた。
テンプル・グランディン&キャサリン・ジョンソン 大橋晴夫(訳) (2006). 動物感覚 アニマル・マインドを読み解く 日本放送出版協会 pp.319-320.
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