嘘つきに対する一般的なイメージは,正しいとは言えない。嘘つきはしゃべるときに目をそらすわけではないし,目を合わせられないわけでもない。一般的な嘘つきのイメージの裏をかこうと,必要以上に目を見て話す人たちもいる。これも一般の通念に反するが,異常なほど鼻の頭をさわったり,咳払いしたりする嘘つきも見あたらない。
嘘つきに追跡可能な身体的特徴があるとすれば,話すときに腕や手,指の動きが少なくなる,ということだ。まばたきも少なくなる。スピーチでは,真実を話している人に比べて,淀みなくしゃべり,文法的な間違いも少ない。ふつうなら,前に戻って,「話し忘れたこと」を話したり,「間違ったこと」を訂正したりするものだが,それも少ない。嘘つきは,脳の大部分を嘘をつくために使っていて,集中力を持続するため,無意識のうちにほかの機能を遮断している。
嘘つきは,間違いを犯さないように最新の注意を払う。嘘つきに見られるのが怖いのか,辻褄が合わなくなって突っ込まれるのが怖いからだ。一般人は,こうした重圧がないので,つっかえたり,言い淀んだりする。だが,嘘つきは筋書き通りにしゃべる。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で,詐欺について研究しているベラ・ディパウロは,「嘘つきの話は,よくでき過ぎている」と語る。
タイラー・コーエン 高遠裕子(訳) (2009). インセンティブ:自分と世界をうまく動かす 日経BP社 pp.147
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