ブレイン・ストーミングは,時間の使い方としては非生産的だ。人は集団のなかにいるときよりも,自分独りの時のほうが新しいアイデアを思いつくものだ。心理学では,「集団による生産性の錯覚」と言われる。各種の調査結果を比較したところ,22の調査のうち,集団のほうが生産性が低いとする調査が実に18にのぼった。身に覚えがあると思うが,他人の仕事を信頼し過ぎて,「ただ乗り」する人が多過ぎるのだ。それでも意外なことに,集団での議論は高く評価されがちだ。個人で考えるよりも,集団でのブレイン・ストーミングのほうがより良い成果が生まれると答えた割合は8割にのぼる。
この認識の誤りの一因は,自己欺瞞にある。集団になると,たいてい自分以外の誰かが発言してくれる。このため重圧は感じない。目新しいことを言わなくても,自分を愚かだとは思わない。議論が続いているので,集団としての発見に携わっていると錯覚する。わたしが発見していなくても,ほかの誰かがしている。何か良いことが起きているのは間違いない。だからこそ,全員でこうやって集まっているのだ。チームの一員であること,それも勝利チームの一員であることに,人は居心地の良さを感じる。
タイラー・コーエン 高遠裕子(訳) (2009). インセンティブ:自分と世界をうまく動かす 日経BP社 pp.175-176
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