わたしたちが「選択」と呼んでいるものは,自分自身や,自分の置かれた環境を,自分の力で変える能力のことだ。選択するためには,まず「自分の力で変えられる」という認識を持たなくてはならない。例の実験のラットが,披露が募るなか,これといって逃れる方法もないのに泳ぎ続けたのは,必死の努力を通じて手に入れた(と信じていた)自由を,前に味わったからこそだ。これに対して,自分の置かれた状況を自分でコントロールする能力を完全に奪われたイヌは,自分の無力さを思い知った。後にコントロールを取り戻しても,イヌの態度が変わらなかったのは,コントロールが取り戻されたことを認識できなかったからだ。その結果,イヌたちは事実上,無力なままだった。
シーナ・アイエンガー 櫻井祐子(訳) (2010). 選択の科学:コロンビア大学ビジネススクール特別講義 文藝春秋 pp.23-24
(Iyengar, S. (2010). The Art of Choosing. New York: Twelve.)
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