インドのラージャスターン大学の心理学者ウシャ・グプタとプーシパ・シングは,この問題を掘り下げる価値があると考えた。そこでインドのジャイプール市で,50組の夫婦を対象とした調査を行った。このうちの半数の夫婦が取り決め婚,残りの半数が恋愛結婚で,結婚期間は1年から20年まで開きがあった。取り決め婚と恋愛結婚を比べた場合,どちらかが他方より,結婚の至福を強く味わっているのだろうか?
まず協力者全員に,ルービンの恋愛尺度に回答してもらった。この尺度は,たとえば「夫/妻には何でも打ち明けられそうな気がする」「(あの人)なしでいるのはとても辛い」といった項目について,どれだけ自分の気持ちに当てはまるかを数字で答えさせ,恋愛感情の強さを測るものだ。この結果を,恋愛結婚と取り決め婚という側面からと,結婚期間の長さという側面から分析した。ふたを開けてみると,恋愛結婚をした夫婦のスコアは,結婚期間が1年以内の場合,91点満点中,平均70点だったが,結婚期間が長くなるにつれてスコアは徐々に低下し,10年を超えるとわずか40点でしかなかった。これに対し,取り決め婚の夫婦は,結婚したては平均で58点と恋愛感情はそれほど高くなかったが,期間が長くなるにつれて感情が高まり,10年超の時点で68点になった。
恋愛結婚は熱く始まるが冷めていき,取り決め婚は冷たく始まるが熱く,いや少なくとも温かくなるということは,あり得るだろうか?たしかにそれならつじつまが合う。取決め婚では,ちょうどルームメイトや仕事仲間や親しい友人の間にきずなが生まれるように,時間がたつにつれて互いのことが好きになるだろうという前提のもとに,共通の価値観や目標を持った2人が引き合わされる。これに対して,恋愛結婚の基になるのは,何といっても愛情だ。出会った瞬間,不思議な力が働いて強く惹かれ合ったという話をよく聞く。そのビビッとくる直感は,2人が結ばれる運命にあるしるしと見なされるのだ。劇作家のジョージ・バーナード・ショーはこう言っている。愛に導かれた結婚によって,2人の人間は「あらゆる感情の中でも最も暴力的で,最も狂気をはらみ,最も人を惑わせ,最もはかない情熱に翻弄される。2人は死によって分かたれるまで,この興奮した,異常な,消耗する状態でいることを誓わされるのだ」。実際,20年連れ添った時点で夫婦の9割が,当初感じていたほとばしるような情熱を失ってしまうことを,脳活動の調査や直接測定が示している。
シーナ・アイエンガー 櫻井祐子(訳) (2010). 選択の科学:コロンビア大学ビジネススクール特別講義 文藝春秋 pp.68-69
(Iyengar, S. (2010). The Art of Choosing. New York: Twelve.)
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