夫婦をそもそも引き寄せたのが恋愛であっても,取り決めであっても,所帯を持ち,子どもを育て,互いにいたわり合うという日々の習慣的行為は,変わらないように思われる。それにもちろんどちらの結婚でも,幸せだと言う人もいれば,そうでない人もいる。どちらの集団も,同じような言葉を使って,自分の感情や経験を表現するかもしれない。だが人が幸せをどのように定義し,どのような基準で結婚の成功を判断するかは,親や文化から受け継いだスクリプトによって決まる。取り決め婚の場合,結婚の成功が主に義務の達成度で測られるのに対し,恋愛結婚では,2人の感情的な結びつきの強さと持続期間が,主な基準になる。このことが意識されていようがいまいが,夫婦がどのように感じ,その結果どのような行動を取るかは,理想的な結婚生活のあり方についてかれらが持っている前提に影響されるのだ。結婚の成功にまつわる1つひとつの語りに,「こうあるべき」という共通認識と,その達成度を測る独自の基準がつきまとう。そしてこうした語りは最終的に,結婚に至る道をしつらえるだけでなく,1月,1年,あるいは50年も続くかもしれない結婚生活の完全な台本を用意してくれるのだ。もちろん即興でやる人もいれば,台本を半分破り捨ててしまう人だっている。だが何が起ころうと,ショーは続けなければならないし,続いていくのだ。
シーナ・アイエンガー 櫻井祐子(訳) (2010). 選択の科学:コロンビア大学ビジネススクール特別講義 文藝春秋 pp.71-72
(Iyengar, S. (2010). The Art of Choosing. New York: Twelve.)
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