選択をするということは,すなわち将来と向き合うことだ。1時間後,1年後,あるいはもっと先の世界をかい間見て,目にしたものをもとに判断を下す。その意味で,わたしたちはみな,素人の預言者だと言える。もっとも,わたしたちがよりどころとするのは,火星や金星,北斗七星などより,ずっと地球に近い要因が多いのだが。プロの預言者もやることは変わらないが,スケールがずっと大きく,やり方も巧妙だ。かれらは常識に心理学的洞察と演劇の要素を組み合わせて,未来を「見せる」ことの達人なのだ。奇妙なことに,かれらはとらえどころがないようでいて,実は物質的なようにも見える。かれらのテクニックを見破ることはできないが,手で触り,目で見て確認できる道具を多用することで,予言が科学的根拠をもとにしているという幻想を作り出しているのだ。
シーナ・アイエンガー 櫻井祐子(訳) (2010). 選択の科学:コロンビア大学ビジネススクール特別講義 文藝春秋 pp.317
(Iyengar, S. (2010). The Art of Choosing. New York: Twelve.)
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