ある会社では,電子メールの私的利用をなくすため,メールのチェックを徹底的に行っている。メールチェックのソフトを導入し,私的利用の疑いがあるメールは専門の社員が内容をチェックする。メールを私的に利用した場合は,本人に警告メールを入れ,それでも続いた場合は職場に報告して,上司が本人に注意をする。しかもメールの私的利用に関するレポートを作成して全職場に配布もしていた。
社員は,メールの私的利用は悪いことだとわかっているものの,それを防止するためにここまで管理する必要はないと思っていた。会社が社員を信頼せず,常に社員の行動を監視しているような気がするからだ。
会社のパソコンでは私的なメールの送受信ができないので,社員は自分の携帯電話のメールを利用するようになった。仕事中に席を離れ,休憩室やトイレで携帯メールのやりとりをする。席を離れるといっても数分のことだから,上司はいちいち注意できない。この会社では,結局,仕事中に私的なメールを送受信している状況は変わらず,席を離れる分だけ業務効率は落ちてしまった。会社に信頼されていないという意識から社員のモチベーションは低下し,メール監視のためのコスト負担も大きい。このようにマネジメントを強化することが,効率低下やコスト負担の増加等のビジネス面での問題を生じさせている。
深田和範 (2010). マネジメント信仰が会社を滅ぼす 新潮社 pp.89-90
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