生物学や進化論など私自身の分野でこのように一見すると気まぐれと思われる名称の中で,ヨーロッパ,西アジア,北アフリカの明るい肌をした人々がコーカサス人種と公式に名づけられたことほど,好奇に思われたり,問い合わせがあったり,講義のあと質問されたりしたものはない。どうして,この西洋で最も一般的な人種がロシアの山脈の名前になぞらえられたのだろうか。すべての人種の分類に最も影響を与えたドイツの博物学者(ナチュラリスト),J・F・ブルーメンバッハ(1752〜1840)が1795年に出版した独創的な著作『人類の自然的種類について』の第3版でこの名称を考え出したのである。ブルーメンバッハの初めの定義では,この名称を選ぶとき,2つの理由,すなわち,1つはこの狭い地域から最も美しい人々が出ていること,もう1つはこの地域で最初に人類が創造された可能性があること,を引き合いに出している。
スティーヴン・J・グールド 鈴木善次・森脇靖子(訳) (2008). 人間の測りまちがい 下 差別の科学史 河出書房新社 pp.317-318.
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