まず,なぜ『南部の唄』は現在見ることができないのかということなのですが,これはアメリカの黒人団体が1946年に初上映されたときから,この作品に黒人差別が含まれていると抗議し続けたからです。
たしかに,この作品のヴィデオ・ソフト(アメリカ版)を見直してみると,キツネさんやクマさんは黒人のように描かれ,話す英語にも南部の黒人特有の言葉づかいとアクセントが認められるのに対し,ウサギさんは白人的に描かれ,話す言葉にも黒人のようなクセはありません。
黒人団体がとりわけ問題にしたのは,主人公のリーマスおじさん役である黒人の召使が,かなり誇張されて描かれているという点でした。つまり,不自然に皮膚が黒く,汚く見えるうえ,目もやたらとぎょろぎょろしているというのです。
さらに実際に黒人奴隷がいた南部プランテーションでは,白人農場主が黒人に一方的に非人道的な労働と生活を強いていたのに,この映画では白人と黒人がそれなりに仲良くやっていたように描かれているという理由がこれに加わります。
この抗議に対して,ディズニー側は,こう答えてきました。
「アメリカの民話をたどり,それを映画によって保存することのほうが,表明されている懸念(黒人差別のこと)より重要だと考えています」
この考えにしたがってディズニー側は,この作品が1946年に初上映されたあとも,1956年,1972年,1980年,1986年と再上映してきました。ところが1986年以降は再上映せず,ヴィデオ・ソフトの製造もしませんでした。
このあと,1992年からは日本でこの作品のヴィデオ・ソフトの販売が始まりました。この年,東京ディズニーランドに「スプラッシュ・マウンテン」が新しいアトラクションとしてオープンしたからです。このヴィデオ・ソフトは,約30万本を売ったのち,1995年に製造を止めます。30万本というのは今では途方もない大ヒットですが,当時でもかなりのヒットです。このころの関係者によると,売れているのに製造を止めたのは,日本では問題になっていないが,アメリカで問題になっているので自粛したということです。
有馬哲夫 (2011). ディズニーランドの秘密 新潮社 pp.172-173
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