胃のバイパス手術を受ける人の大部分は,スーパーモデルになりたいのではない。死にたくないから手術に踏み切るのだ。高い血圧を下げ,重すぎる体重を支える骨や関節を救うためだ。通りを歩きたい,バスで席に座りたい,飛行機にも乗りたい,糖尿病にはなりたくない,40歳,50歳の誕生日が過ぎても生きていたい。両親に先立ちたくはない。
手術に危険がないわけではない。患者のおよそ10%は重い合併症になる。手術中,あるいは手術後に死亡する患者は0.1〜2%,生き残った患者も,消化管リークによる感染症,腹壁ヘルニア,代謝性骨疾患,貧血,骨粗鬆症,胆石,血液凝固,出欠,呼吸不全といった術後の合併症に苦しむ。手術を受けてからは栄養分をあまり吸収できない状態が一生続くので,体内に摂取できるわずかなカロリーには十分気を使う必要がある。バイパス手術を受けた患者の30%近くが栄養不足を原因とした骨粗鬆症,貧血,栄養不良になる。国立衛生研究所によると,10〜20%の患者が合併症の治療のため再度手術が必要になるという。
こういった問題があるにしても,減量手段として胃のバイパス手術を受けようと考えるアメリカ人が今後も増えていくことは疑いの余地がない。アメリカ人のほぼ4分の1が太りすぎている。国中が太ったアメリカ人だらけだ。近年,ディズニーワールドでは構造技術者は乗り物の座席を広げることを余儀なくされている。でないと膨張しつつあるアメリカ人のお尻が入らないからだ。中西部のウォルマートでは10以上[訳注——日本の13号以上]のサイズが最もよく売れている。痩せていることが高く評価され,ウォーキングが日常生活の一部となっているニューヨークのような街も例外ではない。午後にアベニュー・オブ・ジ・アメリカズ(6番街)を見てみるがいい。余った肉で首に輪のできたサラリーマンの列が嫌でも目につく。会社のあるオフィスビルが禁煙になったため通りでタバコをふかしたり,食べ物の命令に従うだけの奴隷さながらにピザやカルツォーネを高く掲げてオフィスに戻ろうとしたりしているところだ。
アレックス・クチンスキー 草鹿佐恵子(訳) (2008). ビューティー・ジャンキー:美と若さを求めて暴走する整形中毒者たち バジリコ pp.230-231
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