働く人々,とくに正社員ではなく派遣社員などの非正規雇用で働く人たちからは,資本主義や資本家を糾弾する声が日増しに高まっており,最近の国会でも,製造業への派遣を原則的に禁止する,ということが決まった。
しかし私はそのニュースを見て,「本質からずれているのではないか」と感じていた。
なぜなら,労働者の賃金が下がったのは,産業界が「派遣」という働き方を導入したのが本質的な原因ではなく,「技術革新が進んだこと」が本当の理由だからだ。
自動車産業に代表される工場のラインがオートメーション化され,コモディティ化した労働者がそこに入っても,高品質の製品が作れるようになったことが,賃金下落の本当の原因なのである。
今政府がとろうとしている政策は,世間の人たちのウケを狙った小手先の改革にすぎず,賃金下落の本質を捉えていない。メーカーへの派遣が法律で禁止されれば,メーカーは次に,その仕事を外注に出し,請負先の企業がやはり低賃金で人を雇ってモノを作らせるだけだ。
つまり賃金下落も,産業の発達段階の問題でしかないのである。産業の成熟化が進み,熟練労働者が必要なくなれば,新自由主義といった思想とは関係なく,労働者は必然的に買い叩かれる存在となってしまうのである。
瀧本哲史 (2011). 僕は君たちに武器を配りたい 講談社 pp.64-65
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