卒業したての学生が起業するときに,いちばんよくある失敗は,「コモディティ会社」を作ってしまうことだ。
たとえば文系の学生が,自分が家庭教師のアルバイトをしているからと,家庭教師派遣の派遣会社を作ったり,理系の学生がプログラミングができるからといって,ゲームやシステムの開発会社を作るのが,その典型的なパターンである。
すでに家庭教師の業界も,ソフトの開発会社も,産業としては古い。現在では多くの会社が乱立し,過当競争が起きている。学生ベンチャーがその業界に新規参入し,たまたまある時期成功したとしても,それは学生の労働力が社会人に比べれば圧倒的に安くすみ,またヒマであるがゆえに仕事が速いといった理由で,一時的に競争力があったにすぎない。
そういう経緯で起業した会社が,10年ほど経って社員の平均年齢が三十数歳となり,体力で勝負することができなくなると,ただの「高学歴ワーキングプア」集団の会社になってしまう。実際にそのような例を私は数多く見てきた。
だからこそ学生は,卒業後すぐに起業するのではなく,一度就職して,社会の仕組みを理解したうえで,コモディティ化から抜け出すための出口(エグジット)を考えながら仕事をしなければいけない。
瀧本哲史 (2011). 僕は君たちに武器を配りたい 講談社 pp.74-75
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