「無主地」とは,どの国家にも所属していない土地のことである。国際法では,このような土地に対しては,ある国家が他の国家に先んじて支配を及ぼすことによって,その国の領土に編入することが認められている。これを「先占」という。
先占が成立するためには,まず,国家が領有宣言などによって公式に領有意思を表明し,さらに,その後も実効的占有を続ける必要がある。個人や私企業が領有を宣言したというだけでは,先占は成立しない。また,たとえ領有宣言を行ったとしても,その後に実効支配を続けなければ先占は成立しない。なお,無人島であっても,巡視を定期的に行うなどして領有意思を明確にしている場合は,先占は成立していると見なされる。また,領有意思を他国に通告する必要はないとされている。
この理論は18世紀末に成立し,19世紀の帝国主義時代には,植民地を正当化するための論理として盛んに利用されることになった。無主地とは,あくまで「どの国家も領有していない土地」という意味であり,その土地が無人かどうかは無関係とされている。したがって,たとえ人間が住んでいようと,その人間たちが「国家」といえるほどの社会を構成していないと見なされる場合は,その土地は無主地と見なされることになったのである。
長谷川亮一 (2011). 地図から消えた島々:幻の日本領と南洋探検家たち 吉川弘文館 pp.18-20
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