まもなく,不思議な体験をした世界中の人々が,ラインのもとに手紙を送ってくるようになった。このころラインは,著名なスイス人精神科医カール・グスタフ・ユングと文通するようになっていたのだが,ユングは「魂が持つ時間と空間に関連する奇妙な性質にとても強い興味を持っている」と,そして何よりも「特定の精神活動において時空の概念が消滅すること」に興味があり,心霊研究にも期待していると書いてきた。他の書簡でユングは,数年前の出来事を語っている。彼は,若い霊媒と交霊会をひらくようになった。まもなく,ユング家の食器棚の中でナイフが爆発音とともに4つに切断された。そして数日後,テーブルがまた爆音とともにふたつに割れた。ユングは,これらの出来事は当時知り合った霊媒と何か関係があると信じていた。
心理学者が,こんなにも簡単にESPを肯定してくれたのは初めてだった。しかもユングのような高名な学者である。しかしラインは,ユングに対して「我々は心についての仮説を『今のところ』何も持っていません。それがあれば,これらの事実を考察する際の手掛かりになるのですが」と認めざるを得なかった。ユングは励ますような返事を送ってきた。「これらの出来事は,単に現代の人類の頑固な脳では理解できないだけなのです。正気じゃない,あるいはイカサマだと捉えられる危険があります」
そしてユングは,ラインがボルトン婦人に言い続けた,頭を低くしておく必要性について述べた。「私が見たところ,正常で健康でありながらそのようなものに興味を持つものは少数です。そして,このたぐいの問題について思考をめぐらせられるものはさらに少数です。私は今までの歳月における経験で確信を持つに至りました。難しいのはどのように語るかではないのです。どのように語らないかなのです」
ステイシー・ホーン ナカイサヤカ(訳) 石川幹人(監修) (2011). 超常現象を科学にした男:J.B.ラインの挑戦 紀伊國屋書店 pp.68-69
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