1940年までに研究所は100万回近い試験を実施し(それをテレパシーと呼ぶか否かは別としても),どう見ても普通ではない結果を出してみせた。実験が適切に設計され,きちんと管理されて実施されたとする。そのうえで彼らの出した結論を否定すれば,同様の統計学的手法,たとえば何百万もの人々が使っている薬の安全性を保証するために製薬会社が用いている手法の結果を否定することにもなる。デューク大学の科学者たちは,実験の管理とデザインに対する批判にすべて対応したうえで,彼らがテレパシーと呼ぶ効果について有効な証拠を収集することに成功したのだ。
この結果を受理できなかった心理学者たちに残された道は「彼らはまちがいを犯したにちがいない」と言い続けることだけだった。こうした批判者たちは統計学を最低限しか理解していなかったので,まず統計を攻撃の的とした。しかし追試の多くが失敗したのは,ラインの実験の100分の1,1000分の1,ときには1万分の1しか実施しなかったからなのだ。そして1937年の末には,,統計学者たちはもう議論は十分だと考えるようになる。
1937年12月,数理統計研究所の所長バートン・H・キャンプ博士が,超心理学研究所の研究結果の統計面について声明を発表した。「ライン博士の研究は,ふたつの側面からなっている。実験と統計である。実験面については,数学者は当然ながら何も申しあげることはない。しかし統計面について言えば,近年の数学研究は,実験が適切になされたと仮定した場合,その統計的分析は有効であるとの結論に達している。ライン博士の研究が的確に批判されるとすれば,それは数学的背景に関連しない部分であるべきだ」
ステイシー・ホーン ナカイサヤカ(訳) 石川幹人(監修) (2011). 超常現象を科学にした男:J.B.ラインの挑戦 紀伊國屋書店 pp.87-88
PR