マイケル・パーシンガー博士は,カナダのローレンシアン大学に所属する認知神経科学者である。彼も幽霊が出ると言われる場所は「電磁波が活発でうるさい」ことが多いという事実に着目した。彼は幽霊が出ると言われる場所で計測されるものに近い値の,弱い電磁場を作り出すヘルメット[God Helmetと名づけられた]を開発した。そして実験では,このヘルメットを装着した人々は幻覚を見た。
「ここで非常に重要な原理は,電磁場の時間的なパターンが幻覚を引き起こすことです」。パーシンガーと彼の共同研究者ドン・ヒルは,人々が霊的な何かを見たり,経験したことがないような大きな音を聞いたり,何かがいると感じたというような,超常現象を経験した現場の電磁波データを集めて研究している。
パーシンガーは「そういった電磁場は常に存在するのですが,長くは続かないのです。短く一時的な現象で,記録を取るには忍耐と細心の注意を必要とします」と話す。
パーシンガーとヒルがパターンを研究室で再現すると,ほとんどの被験者が何かの存在を感じたという。被験者はなるべく先入観を持たないように,自分たちは「リラックス」の研究に参加しているのだと聞かされている。しかし,ヘルメットをかぶったあと,
「自分の左側に影を見ました……私の体の左側を誰かが触っていました……何かを見ました……霊です」というようなことを言った。
存在を感じたと言ったひとりの女性は,
「それがゆっくりと消えていくのを感じたとき,私は泣き出してしまいました」と言ったとのことだ。パーシンガーが発見したのは,脳の右半球が「優先的に刺激された」とき,経験はより恐ろしい感じを伴うということだった。
また別の被験者は,
「暗い不気味な力が,すぐ上方にぼんやりと浮かんでいた」
「奇妙な匂い,恐怖感,その他古典的な幽霊の感じ……たとえば点滅する骸骨のイメージ」
などと報告した。被験者の左側にあらわれた霊は恐ろしいと報告されたが,右にあらわれたものは死んだ親戚,天使,キリストだと思う人が多かった。
パーシンガーは,若い夫婦が「幽霊が自分たちのベッドサイドを通っていく。息づかいも聞こえる」と訴えた家を調べたことがある。彼がそこで発見したのは,何度も繰り返される短期の電磁場パターンであり,「我々の実験と研究で,人の気配を感じさせるものと似たものでした」と報告している。
また彼は,自分の左肩の上に赤ん坊の霊を見続けていた少女を調査したこともある。
「彼女のベッドの上で直接計測してみると,我々が何かを感じさせるために実験室で使っているのとよく似た構造の電磁場が,パルス状に起こっていました」とパーシンガーは言う。
「<幽霊が出る場所>などを含めて,自然界に存在するパターンは人間の脳内でも発生します。変性意識状態にあるときや,非痙攣性の複合的部分発作に近い状態にあるときです。これらは,なぜ他の人より幽霊を感じやすい人がいるのかを説明する助けになるかもしれません。側頭葉感受性(これは精神測定装置で測れますが)が高い個人は,こうした弱い電磁場にでも非常に強く反応するのです」
これがパーシンガーの発見したことである。彼は,脳になんらかのダメージを受け,「自分は怪我をする前とはちがう人間になった」と主張するような人々は,見えないものの存在を感じるなど,超常現象を体験することが多いことも発見している。霊媒は側頭葉感受性が高いか,脳に損傷をもっているのかもしれない。ピーター・フルコスは「霊能力はハシゴから落ちてから目覚めた」と言っている。
ステイシー・ホーン ナカイサヤカ(訳) 石川幹人(監修) (2011). 超常現象を科学にした男:J.B.ラインの挑戦 紀伊國屋書店 pp.268-270
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