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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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遺伝子が行うこと

 遺伝子もまた,直接自らの指で操り人形の糸を繰るのではなく,コンピューターのプログラム作成者のように間接的に自らの生存機械の行動を制御している。彼らにできることは,あらかじめ生存機械の体勢を組み立てることである。その後は,生存機械が独立して歩きはじめ,遺伝子はその中でただおとなしくしていることができる。彼らはなぜそんなにおとなしくしているのだろう?なぜたえず手綱を握って次々に指令を与えないのだろう?時間的ずれという問題があってそうできないのだ。・・・



遺伝子はタンパク質合成を制御することによって働く。これは,世界を操る強力な方法であるが,その速度はたいへん遅い。胚をつくるには,何か月もかけて忍耐強くタンパク質合成の糸を操らねばならない。一方,行動の特徴は速いことである。それは数カ月という時間単位ではなくて,数秒あるいは数分の一秒という時間単位で働く。この世に何がおこり,フクロウが頭上をサッと飛び去り,丈高い草むらがカサカサとなって獲物の居どころを知らせ,1000分の1秒単位で神経がピリリと興奮し,筋肉がおどり,そしてだれかの命が助かったり,失われたりする。遺伝子はこのような反応時間をもちあわせていない。遺伝子にできるのは,アンドロメダ星人と同様に,自らの利益のためにコンピューターを組立て,「予測」できるかぎりの不慮のできごとに対処するための規則と「忠告」を前もってプログラムして,あらかじめ最善の策を講じておくことだけである。しかし,チェスのゲームがそうであるように,生物はあまりに多くのさまざまなできごとにであう可能性があり,そのすべてを予測することはとうていできない。チェスのプログラム制作者の場合と同様に,遺伝子は自らの生存機械に生存術の各論ではなくて,生きるための一般戦略や一般方便を「教え」こまねばならないのだ。

リチャード・ドーキンス 日高敏隆・岸 由二・羽田節子・垂水雄二(訳) (1991). 利己的な遺伝子 紀伊国屋書店 pp.88-92.
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