そんな自己啓発セミナーが本格的に日本に入ってきたのは1977年のことだ。その第1号と呼ばれるライフダイナミックス社は,マルチ商法のディストリビューター(販売員)育成のためにロバート・ホワイトが設立した会社である。
つまり,自己啓発セミナーはマルチ商法とともに日本に輸入されてきたのだ。
その自己啓発セミナーがもっとも普及したのは1980年代後半のことだろう。このバブル時代には企業が新人研修として自己啓発セミナーを活用した。もしくは,企業が独自にそれに似た手法で新人研修を行うケースもあった。
自己啓発セミナーで行われるのは,基本的には自己探求の強制だ。大勢の前で自分の欠点を徹底的に語らせたり,1対1で互いを褒めたりけなしたりを延々繰り返させる。そういった作業を2日も3日も不眠不休で行わせ,最終的には個人を限界ギリギリに追い込む。そこで,最後にはそれまで鬼のようだったインストラクターが優しい言葉をかけ,セミナーから解放する。参加者は皆ぼろぼろと涙を流して泣き,感動体験を得るのだという。本書の冒頭で須藤元気の著作の「気づき」という言葉を取り上げたが,自己啓発セミナーのプログラムでもっとも強調されるのが「気づき」であり,自己啓発セミナーを「気づきのセミナー」と呼ぶ場合もある。須藤元気が使う「気づき」とはこのことだ。
速水健朗 (2008). 自分探しが止まらない ソフトバンク クリエイティブ pp.57-58
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