セミナーを行うことで得られる効果は,自己啓発本などと同じで“ポジティブ・シンキング”である。本を読むよりも,強烈な体験を経て刷り込ませた方が,より強いポジティブ・シンキングが身につくというのは想像に難くない。一時期,企業の多くが自己啓発セミナーを取り入れていたのは,一種の通過儀礼と言っていいだろう。
バンジージャンプは,元々バヌアツで通過儀礼の儀式として行われていたものだった。バンジージャンプのように,あえて荒っぽいことを課して,社会へ迎え入れるための儀式が通過儀礼だ。自己啓発セミナーは,人格を改造し,若者たちが元々持っていた甘えた部分をなくし,どこにでも躊躇なく飛び込んでいける営業マンを育てるためには最適な通過儀礼だったのだ。
しかし,現在では自己啓発セミナーを利用する企業はほとんどなくなった。それは,自己啓発セミナーの反社会的な部分に対しての批判の声が高まったからだ。自己啓発セミナーが批判の対象へと変わっていったのは1990年頃。セミナーへの潜入記が刊行され,テレビなどのマスメディアでもその実態が伝えられるようになると,セミナーの手法がマインドコントロールや人格改造そのものであるとして問題視されるようになる。
速水健朗 (2008). 自分探しが止まらない ソフトバンク クリエイティブ pp.58-59
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