避妊は,いばしば「不自然だ」といって非難される。確かにそのとおり。きわめて不自然にちがいない。ところが困ったことに,不自然なのは福祉国家も同様なのだ。われわれのほとんどは福祉国家をきわめて望ましいと信じていると,私は考えている。しかし,不自然な福祉国家を維持するためには,われわれは,同様に不自然な産児制限を実行しなければならない。そうしなければ,自然状態におけるより,さらにみじめな結果に至るであろう。福祉国家というものは,これまで動物界に現れた利他的システムのうちおそらく最も偉大なものにちがいない。しかしどのような利他的システムも,本来不安定なものである。それは,利用しようと待ちかまえる利己的な個体に濫用されるすきをもっているからだ。自分で養える以上の子供をかかえている人々は,たぶんほとんどの場合無知のゆえにそうしているのであり,彼らが意識的に悪用を計っているのだと非難するわけではいかない。ただし,彼らが多数の子をつくるよう意図的にけしかけている指導者や強力な組織については,その嫌疑をとくわけにはいかないと私には思われる。
リチャード・ドーキンス 日高敏隆・岸 由二・羽田節子・垂水雄二(訳) (1991). 利己的な遺伝子 紀伊国屋書店 pp.185.
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