前出の久木元は,若者たちの「やりたいこと」が見つからない理由にも触れている。
若者にとっての「やりたいこと」というものは,社会経験や他人とのコミュニケーションの中から見出していくものではなく,「本人の内部にのみ存在し,本人だけが発見しうる」ものだからなのだという。
これはどういうことなのだろうか。通常,学校が学生に就職の手助けをする際に行うことは,学校に来ている求人票を提示したり,OBを紹介したりといったものだろう。学校と企業の間で一定数の人員を送り込む「斡旋」も,今は数は激減したが,なくなったわけではない(これは主に高校の場合)。しかし,現代の若者にとっての「やりたいこと」は,就職課に張り出された求人票の中から選び取るものではなく,自分の内面から発見するものなのだという意識が強く存在するのだ。
つまり,この論に従えば,就職活動=自分の内面を知る旅=「自分探しの旅」ということになってしまう。それでは「やりたいこと」を見つけることは,非常に困難な作業となり,ますます仕事から遠ざかってしまうのである。
速水健朗 (2008). 自分探しが止まらない ソフトバンク クリエイティブ pp.114-115
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