これは現代においては「良いことをしたい」という志向が強い人ほど,「何が良いことなのか分からない」という状態に陥りやすいということを示している。「これは善行,これは悪行」と「父親のように断言する」麻原彰晃に引き寄せられたのがオウム真理教だった。
それを踏まえると,現代の自分探しにまつわる事象の多くは,宮台が「さまよえる良心」と言った状況とあまり変わっていないことに気づかされる。
その良心を牽引するのがかつては麻原という導師であり,オウムという宗教団体だった。それが,今は路上詩人のつくるNGOやPR会社のつくるCMに取って代わったのだ。この違いは,大きいのか小さいのかは分からない。環境運動や貧困撲滅運動がそのままテロにつながるような危険性があるなどとは思ってはいない。しかし,「さまよえる良心」という宮台のキーワードは,1995年の当時よりも現代の方がしっくりとくる言葉であるように感じられないだろうか。
速水健朗 (2008). 自分探しが止まらない ソフトバンク クリエイティブ pp.199-200
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