最後に,簡単な宣言をもって締めくくりとしよう。それは利己的遺伝子/延長された表現型という生命観の全体についての要約である。それは,宇宙のどんな場所にいる生物にも適用される生命観だと,私は主張する。あらゆる生命の根本的な単位,原動力は自己複製子である。自己複製子とは,宇宙にあるどんなものであれ,それからその複製(コピー)がつくられるもののことだ。まず最初に,偶然によって,小さな粒子のランダムなひしめきあいによって,自己複製子が出現する。一度,自己複製子が存在するようになれば,それは自らの複製を果てしなくつくりだしていくことができる。しかしながら,どんな複製過程も完全ではなく,自己複製子たちの集団はおたがいに異なったいくつかの変異を含むようになる。そういった変異のあるものは自己複製の能力を失ってしまっているとする。すると,その仲間は,彼ら自身が消滅したときに,消滅してしまうことになる。また別の変異はまだ複製をつくることはできるが,ずっと効率が悪くなっている。だが,ほかの変異はたまたま,新しいやり方をもつようになっていて,自分の祖先や同時代のものよりもずっと効率よく自己複製できるとする。すると,集団のなかで優勢になるのは彼らの子孫である。やがて時間が経過するとともに,世界はもっとも強力で巧妙な自己複製子によって埋めつくされるようになるだろう。
徐々に,よき自己複製子となるためのますます洗練されたやり方が発見されるだろう。自己複製子は,自らの固有の性質のおかげだけではなく,世界に対してそれがもたらす帰結のおかげによっても生き残る。そういった帰結はきわめて間接的なものでありうる。必要なのはただ,どんなにまわりくどく間接的なものであれ,最終的に自己複製子が自らを複製するさいの成功率にフィードバックし,影響を与えるような帰結であることだけだ。
リチャード・ドーキンス 日高敏隆・岸 由二・羽田節子・垂水雄二(訳) (1991). 利己的な遺伝子 紀伊国屋書店 pp.423
PR