実際に,火山国日本は土壌中のカドミウム量が比較的多く,農産物のカドミウム含有割合も諸外国に比べれば全般に高い。特に,コメはカドミウムの平均濃度が0.06ppmだが,栽培されている地域によっては1ppmを超えるコメもできる。国は1ppmを超えるコメは焼却処分とし,0.4ppm以上1ppm未満は農家から買い上げて工業用のノリとして処理している。
米国のコメの平均カドミウム濃度は0.01ppm,タイは0.02ppmなので,これらに比べると日本のコメはリスクが高い。国際基準を検討するFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)では1998年,コメの上限許容値を0.2ppmに強化する案が浮上した。だが,これが決まって日本も従わざるをえなくなると,国産米の数%が食べられなくなってしまう。そこで,日本はさまざまな実験や調査の結果を提出し,日本国内で行っている0.4ppm未満を食用とする規制で,健康影響が発生していないことを主張した。議論の結果,コーデックス委員会は2006年,コメ上限許容値を0.4ppmとすることを決めた。
皮肉なことだが,コメのカドミウム濃度が高くても,日本人が健康影響を心配せずにすむのは,コメを食べる量が減ったからだ。最近は「コメを食べて自給率を上げよう」という運動が盛んだが,日本人が再びコメを大量に食べるようになれば,カドミウムの摂取量は増え健康影響をもたらす可能性もあり,規制をより厳しくする必要が出てくるかもしれない。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.15-16
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