残念ながら,多くの生産者や消費者がウソに気づいていない。その結果,奇妙な現象が起きている。たとえば,ある中国の団体が,地産地消活動の一環として,地元産のコメをレトルトパックのご飯にして売ることにした。だが,ご飯のレトルトパックは地元企業では作れないため,関東地方の企業にわざわざ地元の米を持ってゆき加工したそうだ。「地産地消」の名目で,コメが日本列島を大横断している。
あるいは,「安全でエコな生活を」と,休日に都会から地方の直売所に車で乗り付ける消費者も目立つ。大型乗用車に乗っているのは1人か2人。買うのはごくわずかな野菜,というタイプだ。快適なドライブで,地方のよい空気を吸って気分がよいのは分かる。だが,近くのスーパーマーケットに歩いて行って買う方が,おそらくうんと環境にはやさしい。スーパーマーケットに並ぶ野菜は多くの場合,効率よく大量生産され,エネルギー効率のよい大型船や鉄道,大型トラックで運ばれているからだ。
本当のことが伝えられず,消費者の「気分のエコ」の対象になっているのは,地産地消ばかりではない。減農薬や有機農業,食品リサイクルなど,褒めそやされるさまざまな事柄をじっくりと検討していくと,多くの問題が隠されていることに気付く。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.18-19
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