古くから土づくりのために堆肥の利用を推し進めてきた産地や有機農業産地で,長年の過剰使用がたたり野菜のNO3濃度や重金属濃度が高くなる例が最近目立っている。ブランドに傷がつくため公表されることはほとんどないが,農業関係者の公然の秘密である。
さらに,畜産が盛んな地域の偏りも,家畜糞尿処理を難しくさせている。畜産は都会では「臭う」などと言われ嫌われ,多くが郊外へ移転した。さらに,コストを下げるための大規模化,多頭飼育が進み,北海道や南日本など一部の地域に集中し,糞尿も偏在して発生するようになった。一方,野菜や果物栽培は全国で行われている。畜産県で作られた堆肥を運んで有効利用できればよいが,堆肥は水分を比較的多く含み重くかさばり輸送費がかかるため,遠距離輸送は採算が合いにくい。
その結果,農水省の統計上は「有効利用できる堆肥」となっていても,使われないまま放置されている堆肥が畜産県には大量にある。これらは雨に打たれ,養分の多くは地下水へと流出し,一部は二酸化炭素(Co2)やメタン(CH4),亜酸化窒素(N2O)などとして空気中へ消えている。
畜産県では一時,糞尿を貯めて発行させメタンを発生させて発電を行い,エネルギー源として利用しようとする動きが起きた。だが,この方法では有機物に含まれるCをメタンに変えることは可能だが,Nなどほかの元素は未処理のまま残ってしまう。メタン発酵発電を夢のエネルギー源のように語り,あたかも家畜糞尿の問題がすべて解決するかのような報道まであったが,完全な誤解である。
では,コストを無視して畜産県から対比を搬出し全国にばらまけばいいのか?その代わりに製造や運搬に化石燃料が必要になり二酸化炭素を大量排出するのでは,環境によいとは言い難い。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.80-81
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