私には,今も忘れられない言葉がある。食品リサイクルが脚光を浴び,「環境に良いこと」としてマスメディアで盛んに取り上げられていた2000年夏,ある有機農家から言われた。「リサイクルという美名の下に,農地をごみ捨て場にしないでほしい」。食べ残しや売れ残りの弁当などから作られた堆肥や飼料を,生産者は諸手を上げて歓迎しているわけではないと言うのだ。
堆肥は原料によって含まれる養分の割合が大きく変わるが,日々の食べ残しや売れ残りは,原材料がまちまちで養分の割合が安定しない。フライや調理くずの油かすが多く入ると油分が分解されずにそのまま残って,植物の生育を阻害してしまう。魚のあらには水銀など重金属が多く含まれている場合もある。食べ残しが原料だと,スプーンやタバコの吸い殻,医薬品など異物が混じる可能性も否定できない。故意に毒性物質を食べ残しに混ぜる「犯罪リスク」も想定しうる。つまり,生産者にとって把握できない要素が極めて多くなってしまうことが問題なのだ。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.86
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