消費者の過度な新鮮志向は,「食の安全」を求める意識とも重なり合っている。たとえば,小麦粉とあんこで作る饅頭は,衛生的な工場で生産し,包装時には空気を抜き微生物が入らないようにして,脱酸素剤と一緒に包装すれば,現在の技術なら3〜4か月は軽く日持ちするし,味もそれほど大きく変化しない。
だが,菓子メーカーは賞味期限を3か月とは表示できないという。なぜならば,科学技術の進歩を知らない消費者には,饅頭が3か月もそのまま日持ちするという事実が信じられない。なにか,体に悪いものが入っているに違いない,保存料を入れているのに表示していないのだろう,などと疑う。そうした疑い,苦情を避けるために,菓子メーカーは賞味期限を20日間に設定して販売しているのだ。その結果,消費者はまったく問題のない饅頭を「賞味期限が過ぎたから」という理由で捨てている。
賞味期限を早めて表示するという行為は,一部の菓子メーカーが売れなかった菓子の賞味期限を張り替えて再度売る「偽装表示」のような問題にもつながった。そもそも,最初に表示した賞味期限が短すぎるため,表示を張り替えて賞味期限を延長しても,品質には支障が出ないことが多い。そのため,一部の菓子メーカーが偽装してしまい,07年に相次いで発覚した。
食品製造や流通は,消費者の「感覚」に大きく左右される。消費者の欲望とそれに応える食品関係者が,食品ロスを膨らましている。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.94
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