私は,除草剤散布1回よりも,草刈り機で2回,3回と除草する方が環境への影響が大きいのではないか,と考える。リンゴ農家が使うタイプの除草剤は,哺乳動物や虫などに対する毒性は極めて低い。蒸気圧も低く揮散しにくく,容易に分解する。除草剤散布の周辺環境への影響は,実際には考えにくい。
もちろん,除草剤の生産や果樹園までの輸送,散布にも化石燃料が必要でCo2を排出する。機械除草に何リットルの経由が必要かも調査して比較しなければ結論は出せない。だが,現実には「農薬の使用は環境に悪い」という前提で,生産者は機械による除草を行い,労働量の増加,人件費増に喘いでいる。こうして作ったリンゴも,普通の栽培のリンゴに比べてわずかに高い程度の価格でしか売れない。
同様の例は各地にある。ある自治体は「除草剤を使わず環境に良い稲作を」と農家に機械除草を奨励している。大型機械を動かして除草するときのエネルギー消費は,まったく念頭になく,環境影響にトレードオフが生じていることに気づかぬまま,この自治体は除草剤を使わない稲作に補助金を出している。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.103-104
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