出生率の専門家として著名なロバート・ウィンストンは,自分がもし,不徳なやぶ医者だったら次のような広告を新聞に載せると語っている。それは,次の子どもはぜひとも男子を,と望む人々を対象としたものである(この根底にある性差別は私のものではなく,古代であれば世界中で,また今日でも多くの場所で明らかに存在するものであろう)。「あなたの赤ちゃんを男の子にします。私の特許秘策に対して500ポンドをお支払いください。失敗すれば全額返済いたします」。返金保証は,生み分け方法への信頼を確立するためのものである。当然のことなgら,男の子は約50%の確率で生まれるから,この計略はけっこうな稼ぎとなるだろう。もし,女の子が生まれた場合,たとえば,250ポンドの賠償金を申し出てもいい。返金保証に加えてでも,である。それでも,長い目で見れば,彼はかなりの利益をあげることになるのだ。
私は,1991年の王立協会クリスマス講義の1つで,同じような実演を行なった。私の前の聴衆の中には霊的能力の持ち主がいらっしゃる,その人は精神の力だけで物事に影響を与えることができるのです,と切り出して,その人物をこれからあぶり出してみましょう,といった。「まず最初に,その霊能者が,講堂の左半分におられるか,右半分におられるかを調べてみましょう」。そしてアシスタントにコインをトスしてもらうことにした。この間,聴衆全員を立たせ,講堂の左にいる人にはコインが表が出るように「念じて」もらった。右にいる人は,裏が出るように念じるのである。どちらか一方が外れるのは当然であり,その人たちには座ってもらう。つぎに,残った人を2つに分けた。一方は表を,他方は裏を「念じる」。再び敗者が座った。このようにして二等分を繰り返すうち,7,8回のトスの後,必然的に,1人が立ったまま残った。私はいった。「われわれの霊能者に盛大なる拍手を」。しかし立て続けに8回コインに影響を与えることができたからといって,彼が霊能者にちがいない,と言えるだろうか。
リチャード・ドーキンス 福岡伸一(訳) (2001). 虹の解体 いかにして科学は驚異への扉を開いたか 早川書房 pp.198-199.
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