BSE感染牛の国内発生が明らかになった01年当時,「牛に共食いをさせたからだ」という批判が盛んに行われた。01年9月30日の参議院農林水産委員会では,ある議員が次のように発言している。「これはイギリスで肉骨粉が原因だということになっているんでしょうけれども,基本的にいわゆる牛というのは,何万年,何十万年か何億年か知りませんけれども,発生して以来,草食動物で来たわけですね。それに,あるとき,人間の都合で,味がいいからといって瞬間的に,瞬間的といいますか,歴史の長さからいったら本当に瞬間的ですよね,そこで肉食動物,それも共食いをさせようというような状況なわけですよね。これは自然の摂理からいって,変なことを言いますけれども,合うわけがないと思うんですね」。こうした共食い批判は,テレビやマスメディアでも,たびたび展開された。
だが,それは後付の理屈に過ぎないのではないか?食肉処理をした後の骨や皮,脂肪などを目の前にして,「捨てるのも大変だし,これを上手に使えないか」と考えるのは,当然の発想だったはずだ。
昔も,皮や脂肪など使えるものは切り取って使っただろうが,20世紀に入って有機溶媒の利用など科学技術の画期的な進歩に伴い,利用できる割合はより多くなった。さらに時代が進んで,作業する人や環境に大きな影響を及ぼし危険でもある有機溶媒をできるだけ使わないようにしたい,と考えたのも当たり前。さらに,そうやって得た“資源”をより有効に利用したいと考え,家畜の中でもっとも高価な牛の飼料にまでしてしまうのも,自然な流れだ。
松永和紀 (2010). 食の安全と環境:「気分のエコ」にはだまされない 日本評論社 pp.162
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