実は,欧米では慣行と法制,両方で長期雇用者が守られているのだ。よく知られているのが,「セニョーリティ(先任権)」=勤続年数の長い人ほど解雇対象とならない,という仕組み。労使協定で広まった「ブルーカラー時代の遺物」とも言われるが,現在では,法律として確立されている国もある。年齢差別と相反しないよう,わざわざ注釈をつけて法制化するオランダのような国さえある。
そしてもう1つが,年齢差別禁止法の存在。老齢を理由に解雇することが難しくなっているのだ。アメリカでは,こんな笑い話さえある。
「ある日,業績の苦しくなった経営者が,何気なく部下たちの顔を見た。すると,黒人のサムがこんな声を上げた。『私をクビにしたら,人種差別で訴えますよ』。次に,一児の母であるアンに目をやると,彼女は金切り声で叫んだ。『働く母親をクビにしたら,どんな訴訟が待っているか』。困った経営者は,50代のジミーをにらむ。彼はすぐに身構えた。『肉体労働でもないのに,年齢を理由にクビを宣告できますかね』。最後に経営者は,ジョージに照準を当てた。20代で白人のジョージは,追い詰められて,とんでもないことをカミングアウトした。『僕はゲイだ。個人の性向で解雇したら差別だ!』」
この話からもわかるだろう。がんじがらめになった差別排除法制により,結局,欧米で解雇の対象になりやすいのは,若年層なのだと。
海老原嗣生 (2011). 就職,絶望期:「若者はかわいそう」論の失敗 扶桑社 pp.95-96
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