私たちは,事実はどうあれ,偶然の一致にはなんらかの意味があり,ある種のパターンにそってそれが起こると思いがちである。パターンを探そうとするのは人間のより一般的な傾向で,この傾向は特筆に値するものであり有益でもある。実際,この世の中の多くの出来事や特徴はでたらめでなく,ある種のパターンをもっている。そして,こうしたパターンを検出することは私たち人間にとっても,動物一般にとっても,有益なことなのである。実は何もないのに一見パターンに見えるものを捉えることもあれば,逆に実はパターンがあるのにそれを見つけられないこともある。シチリア島の沖の,片方にスキラの大岩を,もう片方にカリブディスの渦巻きを擁する海の難所を切り抜けるように,この二者のあいだで舵をいかに取るかが難しいのだ確率の考え方は子の難しい舵取りに大いに役立つ。しかし確率論が定式化されるよりもずっと以前から,人間や他の動物は,十分に有能な直感的確率論者だったのである。
リチャード・ドーキンス 福岡伸一(訳) (2001). 虹の解体 いかにして科学は驚異への扉を開いたか 早川書房 pp.216.
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