実は,大学の文系学部の専門教育は,そのまま直接社会で役立つ可能性はほとんどないという事実。ここをはっきりさせておきたい。それも,日本だけではなく,これは世界共通の話だということも。
なぜか,欧米では「大学の専門と職業がきれいに繋がっている」という幻想が,世の中には広く浸透している。そうした幻想が,「日本のように総合職という奇異な雇用慣行を持つからいけないのだ。きちんと採用時点で何の仕事をするか明確にわかる職種別採用なら,大学の専攻と企業での仕事が繋がる」と訳知り顔で語る識者を生み出してしまう。
しかし,この話を欧米の人事・雇用関係者に語れば,こんな風に鼻で笑われることになるだろう。
「アメリカでも,文系の大学を卒業した場合,一番多くの人が就く職業は,営業ですよ。この仕事は,大学のどの専攻と結びつくのですか?総務(アドミニストレーション)や人事(HR)の仕事はどうですか?これも専攻など関係ないでしょう。アメリカの場合は,大学卒業後に,製造や販売の仕事に就く人も多々います。彼らももちろん専攻など関係ありません。経理やシステム開発でさえ,経営学部や情報工学を卒業しなくてもなれますよ」
そう,こと文系学部に限れば,圧倒的多数の人間は,どこの国でも専攻と関係ない仕事に就いている。ホンの少数の,たとえば法務とか金融とか会計とかマーケティングなどのスペシャリストのみ,専攻と近い就職が可能となる。それも,超上位校を優秀な成績で卒業した人のみ。
こんな当たり前の現実を忘れて,幻想が一人歩きしてしまう。
海老原嗣生 (2011). 就職,絶望期:「若者はかわいそう」論の失敗 扶桑社 pp.195-197
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