では,日本と欧米の本当の違いとは何か。実は,それが「総合職(幹部候補)」という仕組みに帰結する,と私は考えている。ここでも,皮相的に「日本はジェネラリストとして,クルクルいろいろな仕事を経験することが違う」というのは間違いだ。総合職制度を敷く日本とはいえ,経理も営業も人事も総務もなんてかたちで,多職務をなべて経験する人などまずあり得ない。一般的には,自分の専門とする領域を持ち,それと関係する周辺職務にたまに行っては,また元に戻る。こんな,「主+副」というのが日本型総合職である。営業を主にして,時折,内勤管理職に行ってまた戻ったり,同じ営業でも他事業部に行って戻ったり,といった感じで。だから,たいていの社員は,「“営業畑”とか“経理畑”とか“水産(事業部)畑”」という言葉で呼ばれる。
では,こんなスタイルの就労を行うのは,欧米ではあり得ないのか?
職務契約概念が強い欧米では,確かに1つの部門で仕事を完結する人が多い。たとえば経理配属者が営業に行くことは少なく(営業内でも事業部が異なる部署への異動はやはり少ない),その場合は,社内公募や自己申告を経て,契約の洗い替えを行う,などの手順を踏まなければならない。必然,部門間異動は少なくなる。ただし,部門内ではそれなりに異動がある。たとえば,経理部門でも,その中にある財務会計から管理会計,IRなどいくつかのグループを経験するのは普通のこと。
とすると,この部分でも言われるほど欧米と日本の差は大きくない。
海老原嗣生 (2011). 就職,絶望期:「若者はかわいそう」論の失敗 扶桑社 pp.237-238
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