カリフォルニアから研修に来ている医学生がこういいました。「こんな患者さんのために,私の払っている税金が使われているなんて,たまらないわ」
まじめで,優秀な医学生ですが,彼女は自分のコメントが別に問題だとも考えていないようです。また,聞いていたチームの仲間もこの意見にはおおむね賛成のようでした。
要するに,米国の人たちは,こういう気分なのでしょう。がんばって所得を得たものが,成功したものだけがそのがんばりに報われる権利がある。薬を使ってエイズになって,英語を話すインテリジェンス(?)も努力も見られない患者なんかに,自分たちががんばって稼いだ税金を使われるのはフェアではない。米国流の正義感から,彼らはこう考えているようなのです。
いくらヒラクリや他の議員ががんばって米国に皆保険制を導入しようとしても何度も何度もつぶされるのも,製薬会社とコネが強く,弱者には冷たいといわれる共和党が2002年の中間選挙で大勝したのも,要は国民がそういう国家を求めている,という見方ができると思うのです。無論良心的な人たちは眉をひそめていると思いますが,所詮政治は数には勝てません。パタキ氏の支持率も最近ジリ貧ですが,彼の医療政策が(州の財政難と伴って)批判されている,という面はあるでしょう。
一国の医療のスタイルは,つまるところその国に住む人たちの気分,志向,そして嗜好が大いに反映されていると思います。日本の医療にもし問題があるとしたら,そこには日本に住む皆さんの気分の反映を見ることができるのかもしれませんよ。
岩田健太郎 (2003). 悪魔の味方:米国医療の現場から 克誠堂 pp.38
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