米国でも日本でも,栄養学は科学とドグマが混在しています。「1日◯◯品食べましょう」とか「栄養は炭水化物中心に」といった今まで使われてきたスローガンには必ずしも科学的裏づけがあるわけではありません。栄養学の権威が「これがよい」と信じて提唱してきた一種のプロパガンダといえなくもありません。
なにしろ,食べ物の研究は難しい。たくさんの被験者を採用して食事の内容と肥満について調べる,という研究を考えてみてください。
正確に食べ物の成分を決定した実験食だと,よりよいデータが出ます。が,おそらく多くの人は実験食だけで何年も過ごすことに耐えられないでしょう。ストレスがたまり,日常生活にも変化がおき,食べ物以外の要素が肥満に影響を与えるかもしれません。逆に,比較的自由に食事を取らせた場合,今度はデータの正確性が犠牲になります。動物実験のデータは必ずしも人間に応用できるというわけでもありません。栄養学の実験のクオリティーは比較的低くなりがちです。
その結果,現在の栄養学が推奨する食事の摂りかたは,純粋に科学的な根拠によるもの,というよりは各界の権威によるフィロソフィー,哲学とでも信念とでもいうのでしょうか,に依存しがちだといいます。アトキンス・ダイエットをあざ笑う人は多いが,それに反駁するには十分なデータは実は,ない。
岩田健太郎 (2003). 悪魔の味方:米国医療の現場から 克誠堂 pp.124−125
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