養子の話を切り上げる前に,指摘しておきたいことがある。強い遺伝論者は,遺伝子が最も重要で環境はあまり重要でないという主張の根拠としてよく,養父母のIQと養子のIQとの相関よりも実の親のIQと子供のIQとの相関のほうが一般的にずっと高いという事実を,引き合いに出している。遺伝論者の考えによれば,養家の環境の違いによってIQが変わらないのだから,養子が置かれる環境はその子供の知能にほとんど影響を及ぼさないという。
この結論が誤解にもとづいていることはもうおわかりだろう。養家の環境はほとんどがかなり似ていて,おもに健全な中流階級あるいは上層中流階級の家族からなっている。SESの低い養家でも,育児法では高い水準にあって,高いIQが期待できる。養家内の変動が相対的に小さいので,養父母のIQと養子のIQとの相関が極めて高くなるとは考えにくい。IQを左右するような面に関して養父母の環境に大きな違いはなく,違いが小さければ相関は大きくなりえない。
それに対し,養家の環境とSESの低い一般的な環境との違いは大きく,それがIQの大きな違いを生む。したがって,養父母のIQと養子のIQとの相関が相対的に低いというのは単なる数字のトリックで,養家が養子のIQに大きな影響を及ぼすという事実とは1つも矛盾しない。
リチャード・E・ニスベット 水谷 淳(訳) (2010). 頭のでき:決めるのは遺伝か,環境か ダイヤモンド社 pp. 44-45
(Nisbett, R. E. (2009). Intelligent and How to Get It. New York: W. W. Norton & Company)
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