それでは,55年間にレーヴンが標準偏差の2倍,WISC動作性テストが標準偏差分伸びたというのは,本当に知能が大きく変化したことを物語っているのだろうか?そうではないだろう。確かに,ある種の流動性知能を支えるスキルは大きく変化したが,そうした課題からかけ離れた領域における問題解決のスキルは影響を受けていないだろう。現段階で,そうしたスキルがどれほどの範囲に及んでいるかまではわかっていない。
断言しておくが,レーヴンマトリックスが文化と無関係なIQテストだという主張は,いまやまったく通用しない。このテストを使って,西洋型の学校教育をほとんど受けていない,読み書きのできないアマゾン部族やアフリカ人と,教育が行き届きコンピュータが普及した複雑な文化のなかで生きているアメリカ人,スゥエーデン人,スペイン人とを比較しても,以前には意味があったかもしれないが,いまや学問の世界では相手にされない。
しかしだからといって,1つの文化のなかで,賢い人がそれほど賢くない人とレーヴンテストで同じ出来を示すということにはならない。賢い人は当然,いまでも2世代前でも出来がよい。それは,いまも昔もレーヴンのスコアによって学問的能力や職業上の成功をある程度予測できるからだ。そして,数学教育やコンピュータの普及などの文化的な変化によって,レーヴンなどの流動体知能テストは誰にとっても簡単になってきている。
リチャード・E・ニスベット 水谷 淳(訳) (2010). 頭のでき:決めるのは遺伝か,環境か ダイヤモンド社 pp. 64-65
(Nisbett, R. E. (2009). Intelligent and How to Get It. New York: W. W. Norton & Company)
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