第5章で紹介したハートとリズレーによるカンザス州の家族の調査では,どの集団においても,親が子供に温かく接するか罰を与えるかについて,極めて大きな違いがあった。前に述べられたように,専門職の子供は1回叱られるごとに6回励まされ,労働者階級の親の子供は1回叱られるごとに2回励まされる。しかし,生活補助を受けている黒人の親の子供は,1回励まされるたびに2回叱られる。専門職の白人の子供は3歳になるまでに,励ましの言葉を50万回,気落ちする言葉を8万回聞く。一方,生活補助を受けている黒人の母親の子供は,3歳になるまでに,励ましの言葉を約7万5000回,叱る言葉を20万回聞く。
さまざまな理由から見て,こうした違いは認知発達に極めて重要な影響を及ぼすと考えられる。そして,このように子供を気落ちさせるという黒人の育児の特徴は,少なくとも1980年代には,中流階級の黒人の親にもある程度当てはまっていたことがわかっている。
リチャード・E・ニスベット 水谷 淳(訳) (2010). 頭のでき:決めるのは遺伝か,環境か ダイヤモンド社 pp. 145-146
(Nisbett, R. E. (2009). Intelligent and How to Get It. New York: W. W. Norton & Company)
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