ヘアンシュタインとマレーが示したように,高校で黒人の能力が白人ほどは上がらないのは間違いない。差の開き方はあまりに大きく,不安にさせるほどだ。黒人のAFQTのスコアは,高校入学時には白人より標準偏差の5分の3足らず低いだけだが,高校修了時にはほぼ1標準偏差分低くなる。
心理学者のジョエル・マイアーソンらは,大学でも黒人は同じように厄介な後れを示すかどうか見極めることにした。能力差が時とともに強く表れてくるという理論にもとづけば,大学でのIQの伸びは黒人のほうが白人より小さく,高校のときよりさらに差が開くと考えられる。
しかしマイアーソンらは,それとまったく逆の現象を見出した。最終的に大学を卒業することになる黒人生徒の高校修了時の学力は,同じく大学を卒業する白人生徒より1標準偏差分以上低かった。しかし大学生活のあいだ,白人学生のIQがほとんど上がらなかったのに対し,黒人学生のIQはかなりの勢いで上がっていき,最終的な平均IQは白人の平均より標準偏差の0.40倍強低いだけとなっていた。大学教育におけるこの伸びの差はかなり大きい。
なぜ大学では黒人の方が伸びるのか?というより,なぜ高校ではほとんど伸びないのか?最も明らかな理由が,黒人は白人より悪い高校へ進むということ。もう1つの理由が,白人と同じように振る舞うなという圧力に抵抗するのが,大学より高校でのほうが難しいことだ(大学でも圧力があったとして)。
あと1つ考えられる理由として,黒人生徒のなかでも,直面している社会環境によってテストの出来や動機づけが大きく違ってくることが,ステレオタイプ脅威に関する研究によって示されている。
たとえばスティールとアロンソンの実験調査によれば,テストを脅威と感じる方法——知的能力をあからさまに詮索されることで,知的に劣っているという黒人のステレオタイプに当てはまるようなスコアを出さないか心配になるような方法——とは違うやり方でおこなった場合,黒人生徒の出来が著しくよくなることが示されている。
リチャード・E・ニスベット 水谷 淳(訳) (2010). 頭のでき:決めるのは遺伝か,環境か ダイヤモンド社 pp. 184-185
(Nisbett, R. E. (2009). Intelligent and How to Get It. New York: W. W. Norton & Company)
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