私たちの記憶はすべて,それが「子どもの頃に関する子どもの記憶」であっても,「子どもの頃に関する大人の記憶」であっても,「昨日起こったことに関する大人の記憶」であっても,誤りを免れないことは明らかだ。これが何かの役に立つものではない。そんな発言をするよりも,記憶の誤りを引き起こす具体的な要因について理解するほうが,ずっと役に立つだろう。正確な記憶と不正確な記憶を区別する方法はあるだろうか?ある出来事はほかの出来事よりもたやすく忘却されるのだろうか?想起と表裏一体である忘却のプロセスは,研究や分析ができるのだろうか?間違いなく体験した出来事を思い出せず,記憶がどこかに行ってしまった場合でも,その記憶を取り戻すことができるだろうか?
この20年の間,子どもの頃の記憶が「20世紀のもっとも有名なメンタルヘルスをめぐるスキャンダル」と呼ばれる戦場と化してから,多くの心理学者がこれらの疑問を解明しようと努力してきた。
カール・サバー 越智啓太・雨宮有里・丹藤克也(訳) (2011). 子どもの頃の思い出は本物か:記憶に裏切られるとき 化学同人 pp.108-109
(Sabbagh, K. (2009). Remembering Our Childhood: How Memory Betrays Us, First Edition. Oxford: Oxford University Press.)
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