面白いことに,抑圧された記憶に対する懐疑論者の女王であるロフタスは,突如として記憶を取り戻す,という体験をしたことがある。ロフタスが14歳のときに母が水死した出来事についての記憶だ。彼女の44歳の誕生日,親戚が集まって話をしていたときのことだ。彼女は叔父から「おまえも母親の遺体を発見した1人だった」という話を聞かされた。そのときまで,母親の死そのものに関してほとんど何も覚えていなかったのだが,自分が母親の遺体を発見した瞬間のはっきりした記憶が蘇ってきた。ジョージ・フランクリンの娘と同じように[訳注:『抑圧された記憶の神話』によれば,この出来事があったのはロフタスの誕生日ではなく,叔父のジョーが90歳を迎えた誕生日である]。
それから数日後,叔父は間違っていて,母の遺体を発見したのはロフタスではなくて叔母だったと兄から聞かされた。そのため,この数日間にロフタスが「回復した」記憶はまったくの誤りだった。「私は自分でやっている実験を,不覚にも自分で体験してしまったのです!懐疑的に物事を見る私の心でさえ,信じやすいことが本質なのだということに,不思議な感覚を覚えました」とロフタスは述べている。
カール・サバー 越智啓太・雨宮有里・丹藤克也(訳) (2011). 子どもの頃の思い出は本物か:記憶に裏切られるとき 化学同人 pp.124
(Sabbagh, K. (2009). Remembering Our Childhood: How Memory Betrays Us, First Edition. Oxford: Oxford University Press.)
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