記憶回復療法がまともではない証拠の1つは,心理療法家が違えば治療技法も違い,それぞれが自分の技法こそ,もっとも効果のある方法だと考えていることだ。これは単純に心理療法一般に当てはまる性質にすぎないと思われるかもしれない。しかし,これは誤った考えだ。科学を基礎としたちゃんとした臨床心理学研究は長い年月をかけてその技法を洗練させており,資格を持った臨床心理士の間では,さまざまな心理的問題に対して,効果がもっとも確かなのは認知行動療法(cognitive behavioral therapy),略してCBTと総称される心理療法のパッケージであるとの合意が一般になされている。CBTの利点の1つは,数年にわたってかなりの時間とお金を要するのではなく,数カ月というきわめて短い期間で実施できる点にある。CBTはまた,心理療法家が利用するほかの心理療法と違い,有効性が科学的に実証されている。ある条件下では,これまで医師によって処方されていた薬物よりも効果的であることがわかっている。
カール・サバー 越智啓太・雨宮有里・丹藤克也(訳) (2011). 子どもの頃の思い出は本物か:記憶に裏切られるとき 化学同人 pp.224-225
(Sabbagh, K. (2009). Remembering Our Childhood: How Memory Betrays Us, First Edition. Oxford: Oxford University Press.)
PR