心理療法家が記憶回復のために利用する別の手法に「イメージ誘導法」がある。この手法では,クライエントに「もしそのような出来事が起こっていたとしたら,どんなものだったと思うか想像してください」という指示を与える。イメージ誘導法もまた,偽りの記憶の形成に関わっていることが明らかにされている。イーラ・ハイマンとジョエル・ペントランドは,実際には体験したことがない出来事に対して,イメージ療法を用いた場合と,ただ単に1分間その出来事について考えただけの場合とを比較する実験を行っている。実験の結果,イメージ誘導法を用いたグループでは実験参加者の40%が偽りの記憶をつくり出し,実際には体験していない出来事に対して,実際の出来事であるという強い確信を持つことが明らかになった。これに対して,ただ1分間考えるだけだった統制群で偽りの記憶を形成した人は12%にすぎなかった。
カール・サバー 越智啓太・雨宮有里・丹藤克也(訳) (2011). 子どもの頃の思い出は本物か:記憶に裏切られるとき 化学同人 pp.235
(Sabbagh, K. (2009). Remembering Our Childhood: How Memory Betrays Us, First Edition. Oxford: Oxford University Press.)
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