「『人間』は,生産せずに消費する唯一の動物である。ミルクも出さなければ,卵も生まない。力がなくて鋤も引けない野ウサギを捕えるほど早く走ることもできない。それにもかかわらず,彼らは動物たちに君臨している。動物を働かせ,動物には餓死すれすれの最低量を与えるだけで,あとは全部自分たちがひとりじめにしている。われわれの労力が土地を耕し,われわれの糞が土地を肥やしている。それにもかかわらず,われわれのうちで,誰か,裸の皮膚以上の財産をもっているものがいるだろうか?わたしの目の前にいらっしゃる雌牛さん,あなた方は,この1年間に何千ガロンのミルクを出されましたか?しかも,あなた方のたくましいお子さんを育てるはずのミルクは,いったいどうなりましたか?最後に一滴に至るまで,われわれの敵の咽喉を潤したのであります。また,メンドリさん,あなた方は,この1年間にどれだけの卵をお生みになりましたか?そして,そのうちのいくつがひよこに孵りましたか?残りは,ことごとく,ジョーンズと彼の一味のものたちに金をもたらすために,市場へ送られてしまったのです。それから,クローバーさん,あなたの老後の支えとなり,楽しみともなるはずだった,あなたのお腹を痛めた4頭のお子さん方は,どこにいられますか?1歳になったとたんに,みんな売られてしまいました---そして,あなたは,もう二度とお子さん方の顔をごらんになられることはないのです。4回のご出産と農場におけるいっさいの労苦の報酬として,あなたは,いったい何をもらったというのですか?どうにか命をつなぐだけの食物と厩だけではありませんか?」
ジョージ・オーウェル 高畠文夫(訳) (1972). 動物農場 角川書店 pp.11-12.
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