しかし,20ヤードもいかないうちに,彼らはいきなり立ち止まった。農場住宅から,どっとあがる騒々しい叫び声が聞こえてきたのだ。動物たちは,駆けもどって,また窓からのぞいてみた。思った通り,ものすごい大喧嘩が始まっていた。わめき立てる声や,テーブルをドンドンたたく音がしたかと思うと,にくしみをこめた,うさんくさそうな視線がとびかい,相手の言葉を打ち消す,騒々しい怒罵の叫びがあがった。喧嘩のもとは,ナポレオンとピルキントン氏が,同時にスペードのエースを出したことらしかった。
十二の怒声があがっていたが,その声はみんな同じだった。豚の顔に何が起こったのかは,もう疑いの余地もなかった。屋外の動物たちは,豚から人間へ,人間から豚へ目を移し,もう一度,豚から人間へ目を移した。しかし,もう,どちらがどちらか,さっぱり見分けがつかなくなっていたのだった。
ジョージ・オーウェル 高畠文夫(訳) (1972). 動物農場 角川書店 pp.149-150.
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